第3回 MASTER KEYプロジェクト定例会報告

MASTER KEYプロジェクト担当の国立がん研究センター中央病院の先生方とRCJが定期的に会合を持つMASTER KEYプロジェクト定例会。第3回目は、昨年12月11日に行われました。報告が遅くなりましたことをお詫びいたします。
以下、定例会の内容のポイントを報告いたします。(NCCHは国立がん研究センター中央病院の略称)

定例会内容ポイント

1. MASTER KEY PROJECT(以下MKP)レジストリへの登録状況

(NCCH)MKPレジストリパートへの登録は月に30~40例で推移し、2019年11月末時点で固形がん869例、その内訳はNCCH719例、京都大学28例、北海道大学81例、九州大学41例となっている。他に血液がんでの登録が74例ある(MKPホームページ(以下MKP‐HP)によれば2020年3月13日時点で登録数が1000例を超えたとのこと)。なお新たに東北大学がMKPに加わる予定(MKP‐HPによれば2020年2月より登録開始)。

(RCJ)地域別の登録数は?

(NCCH)施設別の登録数を参考にしてほしい。ただしNCCHの場合ほとんどが他院から紹介されてきて転院されている方々です

(RCJ)病種別の登録数はどうか?

(NCCH)登録上位のがん種 は(数が多い順に)① 軟部肉腫、 ② 中枢神経のグリオーマ、 ③ 神経内分泌細胞腫瘍、 ④ 唾液腺/唾液腺類の上皮性腫瘍、⑤胆道癌、⑥骨肉腫、⑦卵巣・卵管の上皮性腫瘍、など。

2. MKP副試験(臨床試験)への登録状況

(NCCH)副試験への参加者はレジストリ登録数の約10%で推移している。今後も副試験を増やしたい。新たに登録が開始になった副試験はMKPのサイトにすぐに掲載する(MKP‐HPによれば2020年3月末時点で医師主導治験6件、企業治験4件が登録中)。課題として、バイオマーカー(遺伝子変異)の種類によっては参加者がなかなか集まらないこともある。

3. レジストリ登録データの解析について

(NCCH)年2回、レジストリに登録しているデータを解析している。バイオマーカー検査としては登録者の6-7割が遺伝子パネル検査を用いており、残りは免疫染色法のみやFISH法のみの検査結果を有する患者である。遺伝子パネル検査の内訳はNCCオンコパネルが一番多く、次にFoundationOne検査やガーダントなど。見つかる遺伝子変異については、小腸がんでは全例でなんらかの遺伝子変異があり、逆に脳腫瘍は遺伝子変異がみつかりにくいなど、がん種別ごとに特徴がある。データ解析したレポート自体は公表していないが、解析結果の一部は論文で発表している(Clin Pharmacol Ther. 2020 Feb 29. doi: 10.1002/cpt.1817. PMID: 32112563)。

(RCJ)今後、レジストリのデータがどのくらい増えれば薬事申請に使えるようになるか?

(NCCH)数が増えれば増えるほどよい。個別の案件によるが、がん種を絞った集団で数十例の規模になると適応拡大などに寄与するデータになるのではと考えている。

4. 遺伝子パネル検査の課題

(RCJ)理事の知人でエヌトレクチニブ(販売名:ロズリートレク)を使いたいが、なかなか使えない患者がいる。こういう問題はMKPで検討されているか?

(NCCH)NTRK融合遺伝子というまれな変異を標的とした治療薬だが、そもそも次世代シークエンサーを用いる遺伝子パネル検査が保険償還後まだ増えていないため、ロズリートレクを使えている人が少ない状況。これを打開するために、より簡便な方法(例:免疫染色法)でまずふるいにかけるスキームなどを検討する必要がある。

5. 全ゲノム解析について

(RCJ)現在、国を挙げて全ゲノム解析を推進する動きがあるがMKPとしてどう考える?

(NCCH)NCCオンコパネルで114種類の遺伝子変異を調べても直接治療につながるとは限らない現状がある。全ゲノムを見てもすぐに患者のメリットが大きく変わるわけではないかもしれないが将来の患者にとっては有用な情報となる。全ゲノム解析の推進は、すぐに治療に役立てるということではなく、日本で治療開発を進めていくためのデータベース構築という意味で必要なこと。

6. PPI(患者・市民参画)について

(NCCH)PPIは、臨床試験プロセスの一環として研究者が患者・市民の知見を参考にする取り組み。MKPとRCJの連携もPPIの一例といえる。他の例として、2019年11月にJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)で第1回患者・市民セミナーを行い臨床試験を活性化する方策について議論した。その際の意見交換では、5年生存割合が60%から70%になる治療と副作用が半減する治療のどちらがいいかと尋ねたところ患者さんのほとんどが副作用が半減する方がいいと言われ、医療関係者にはインパクトが大きかった。JCOGのセミナーは来年もやりたい。色々な場で患者さんと会話することが必要と思っている。

(RCJ)患者会のリーダーなど、講義を受けて勉強した方が臨床試験のデザイン段階から議論に参加できるような形ができるとよい。

(RCJ)AMED(日本医療研究開発機構)では、欧州で作成された臨床試験についての教材を翻訳して利用しようとしている。

(NCCH)MKPやJCOGも、AMEDとも連携していきたい。

(RCJ)RCJが行ったアンケートでは回答した患者さんの10%が臨床試験に参加しており、可能であれば臨床試験に参加したい方々はより多くいることが分かった。そういう患者さんに臨床試験の情報を渡していきたい。

(NCCH)RCJのアンケートは素晴らしい。ああいう患者団体でできる研究は貴重である。

(RCJ)PPIに関して、MKPで行う副試験のプロトコール(研究計画書)に患者の意見参加を考えられているか?

(NCCH)副試験の研究計画書案ができたところで、RCJのメンバーに見ていただき、患者さんの視点で選択基準やエンドポイントなどに意見を言っていただくというのを一度やってみてもよいかもしれない。特に説明同意文書にはご意見いただきたい。